社員独立支援制度とは、会社が社員の独立を後押しし、独立したあとも取引などで関係を続ける制度です。
よく知られているのは、飲食店ののれん分けや、コンビニエンスストアなどの加盟店として独立する形です。ただ、建設業やその周辺の会社にとって、もう1つ合う形があります。
それは、社員に技能を身につけさせ、独立したあとも協力業者として仕事を出す形です。
職人の高齢化で外注先が見つかりにくくなる中、自社で育てた職人が、独立後も協力業者として現場を支えてくれる。社員にとっては独立の道が開け、会社にとっては信頼できる外注先が増える形です。
この記事では、経営者や人事の担当者に向けて、次のことをお伝えします。
社員独立支援制度の4つの型と、協力業者化の利点と負担
建設業で「協力業者化」の形が合う理由
制度を作る手順
独立した元社員と業務委託で組むときの、法律の注意点と契約で決めておくこと
社員の研修費に使える公的な助成と、独立する社員が使える公的な支援
社員に技能を身につけさせる方法と、制度を作らないほうがよい場合
【目次】
建設業やその周辺の会社の経営者から、こんな声を聞くことがあります。
腕を上げた社員が、独立して辞めていってしまう
外注先の職人が高齢になり、頼める先が減っている
若い社員に、将来の目標を示してあげられない
社員の独立は、これまで「会社の損失」と受け止められることが多かったかもしれません。育てた人材が出ていき、ときにはお客様まで連れていくこともあります。
ただ、見方を変えると、独立を望む社員は、仕事への意欲が高く、技能を磨く力を持った人でもあります。その人が独立したあとも、自社の協力業者として一緒に働いてくれるなら、会社にとっても大きな力になります。
社員独立支援制度は、社員の独立を「失う」から「育てる」に変える仕組みです。
社員独立支援制度には、大きく4つの型があります。
のれん分け
中身:会社の屋号や商品を使って、社員が店を開く
独立後の関係:屋号の使用料などで関係が続く
加盟店化
中身:社員が、会社のフランチャイズの加盟店になる
独立後の関係:加盟店として、ロイヤルティなどを払う
協力業者化
中身:社員が技能を持って独立し、業務委託で仕事を受ける
独立後の関係:会社が協力業者として仕事を出す
グループ会社化
中身:社員が、会社の出資を受けて別会社を作る
独立後の関係:出資と取引で関係が続く
のれん分けや加盟店化は、飲食や小売など、店舗を構える事業でよく使われる形です。グループ会社化は、出資の負担が大きく、社員が1人で始める独立には向きにくい形です。
建設業やその周辺の会社に合うのは、協力業者化の形です。社員が身につけた技能を持って独立し、会社はその元社員に業務委託で仕事を出します。
この形を作るときに気をつけることは、大きく3つです。
1. 独立した元社員との関係が、実態として雇用と変わらない形にならないようにする
2. 取引の条件をはっきり示し、報酬の決め方や支払いを適正にする
3. 研修費など、育成にかかる費用の負担の仕方を決めておく
協力業者化の形で社員独立支援制度を作る会社には、次のような利点と負担があります。
社員の意欲が上がる:「いずれ独立できる」という目標が、技能を磨く動機になる
採用で目を引く:独立を目指す人に、入社する理由を示せる
協力業者が増える:自社のやり方を知る外注先ができる
技能が引き継がれる:ベテランの技能を、次の世代に渡せる
育つまでに時間がかかる:独立できる腕になるまで、育成の時間と費用がかかる
独立する社員に資金が足りない:独立の資金を用意できず、話が進まないことがある
独立後の関係が続かないことがある:条件が合わず、協力業者にならないまま離れることもある
雇用との線引き:独立後の働き方が実態として雇用と変わらないと、法律上の問題になる
利点は大きい一方で、制度を作ればすぐに協力業者が増えるわけではありません。数年単位で、少しずつ育てていく制度と考えてください。
建設業で協力業者化の形が合うのには、はっきりした理由があります。
国土交通省の資料「建設業を取り巻く状況等について」によると、令和7年の建設業の就業者のうち、55歳以上は36.6%、29歳以下は11.9%です。
建設業で働く人の3人に1人以上が55歳以上で、29歳以下は1割ほどです。これまで頼んでいた外注先の職人が引退していったとき、代わりに頼める若い職人は多くありません。
外注先をよそで探すのではなく、自社で育てる。社員独立支援制度の協力業者化は、この課題への1つの答えになります。
さらに、自社で育てた協力業者には、次のような強みがあります。
自社の仕事のやり方や品質の基準を知っている
自社のお客様への対応の仕方を分かっている
現場の段取りや、社内の担当者とのやり取りに慣れている
協力業者化の社員独立支援制度を作る手順の一例です。会社の規模や業種に合わせて組み替えてください。
1
決めること:制度の目的
中身:協力業者を増やしたいのか、社員の意欲を高めたいのか
2
決めること:対象者の条件
中身:勤続年数、身につけている技能、本人の希望など
3
決めること:身につける技能と研修
中身:どの技能を、どこで、どのくらいの期間で学ぶか
4
決めること:研修費の負担
中身:会社が負担するのか、一部を本人が負担するのか
5
決めること:独立前の試し方
中身:在籍中に副業・兼業として試せるか
6
決めること:独立後の発注
中身:どのくらいの仕事を、どんな条件で出すか。約束できる範囲はどこまでか
7
決めること:業務委託契約
中身:報酬、支払い、責任、契約の期間などを決める
8
決めること:見直し
中身:制度を使った社員の声を聞き、定期的に見直す
特に6番目の「独立後の発注」は、約束の仕方に注意が必要です。「独立したら毎月これだけの仕事を出す」と約束しすぎると、会社の受注が減ったときに守れなくなります。反対に、発注の見通しがまったくないと、社員は独立に踏み切れません。
約束できる範囲を正直に示し、書面で残しておくことが、あとのトラブルを防ぎます。
もう1つ、独立後に元のお客様との取引をどう扱うかも、独立の前に話し合っておいてください。どのお客様は会社が担当し、どの仕事を元社員に出すのか。元社員が自分で見つけたお客様の仕事はどう扱うのか。先に決めておけば、「お客様を連れていかれた」という行き違いを防ぎやすくなります。
5番目の「在籍中の副業・兼業」を認める場合は、雇用契約と副業の仕事の区別をはっきりさせてください。自社の社員に、在籍したまま自社から業務委託で仕事を出す形は、雇用との線引きが特にあいまいになりやすいので、専門家に相談してから決めるのが安全です。
制度を作るときは、最初から大きな制度にしないことをおすすめします。
独立を望む社員が1人いれば、その人と一緒に、研修から独立、独立後の取引までを1回通してみる。その経験をもとに、制度の中身を固めていくほうが、実態に合った制度になります。
協力業者化の形で最も気をつけたいのが、独立した元社員との関係が、実態として雇用と変わらない形にならないようにすることです。
契約の名前が業務委託でも、実際の働き方が雇われて働く人と同じなら、法律上は雇用として扱われることがあります。
どちらに当たるかの判断については、厚生労働省の「労働基準法研究会報告(労働基準法の『労働者』の判断基準について)」(昭和60年)で、考え方の骨組みが示されています。そこでは、次のような観点から、実態で判断するとされています。
仕事の依頼を断れるか:依頼や指示を断る自由がない
指揮監督を受けているか:仕事の進め方を細かく指示されている
時間や場所に縛られているか:働く時間や場所が決められている
代わりの人でもよいか:本人以外が仕事をすることが認められていない
報酬の決め方:仕事の成果ではなく、働いた時間で報酬が決まっている
事業者としての性格:道具や機械を会社が負担している。ほかの会社の仕事を受けていない
国土交通省の「社会保険の加入に関する下請指導ガイドライン」には、契約の前に働き方を確かめるための「働き方自己診断チェックリスト」(別紙4)が示されています。このガイドラインでは、元請や下請の会社が、一人親方と契約する前にこのチェックリストで働き方を確かめ、雇われて働く人に当たる場合は雇用の契約に切り替えることを求めています。独立した元社員と契約するときも、同じように確かめてください。
独立したはずの元社員が、毎日決まった時間に会社に来て、会社の指示どおりに働き、1日いくらで報酬を受けている。こうした形は、雇用と判断される可能性が高くなります。
独立した元社員に仕事を出すときに関わる、主な法律は次のとおりです。
フリーランス・事業者間取引適正化等法(令和6年11月1日施行):仕事の内容や報酬などの取引条件をはっきり示す(すべての発注者)。従業員を使う発注者には、支払期日を決める義務などが加わり、一定期間以上続く取引では、買いたたきなどの行為が禁じられる
建設業法(改正法が令和7年12月12日に全面施行):建設工事の下請の取引のルール。職人の労務費を著しく低くする見積もりや契約を禁じる「労務費に関する基準」がある
壁紙や床の貼り替えなどの内装工事は建設工事にあたるので、下請の取引には建設業法がかかります。あわせて、フリーランス法も、元社員が人を雇わずに一人で仕事を受ける場合などに関わります。
なお、中小受託取引適正化法(取適法。2026年1月に下請法から名称と内容が変わった)は、建設工事の下請の取引には適用されず、建設業法で扱われます。
どの義務が自社にかかるかは、会社の規模、取引の内容、取引の期間によって変わります。制度を作るときは、公正取引委員会や国土交通省の案内で確かめるか、専門家に相談してください。
独立した元社員と業務委託契約を結ぶときに、決めておきたい項目です。
仕事の内容:どんな工事を、どの範囲で請け負うか
報酬:面積か、工事ごとか。何が含まれるか
支払い:締め日と支払日、支払いの方法
ほかの仕事との掛け持ち:他社の仕事を受けてもよいか
独立後の競業:元のお客様との取引をどう扱うか
保険:労災保険の特別加入など、けがへの備え
事故や施工不良の責任:誰が、どこまで責任を負うか
契約の期間と終わり方:期間、更新、途中で終えるときの手続き
特に「ほかの仕事との掛け持ち」と「独立後の競業」は、制限しすぎに注意してください。
独立した元社員は、会社とは別の事業者です。自社の仕事以外を受けることを一切認めない形や、必要な範囲を超えて競業を禁じる形は、元社員の事業を縛りすぎることになり、雇用との線引きの面でも、取引の公正さの面でも問題になりえます。
社員に新しい技能を身につけさせる研修の費用には、国の助成金が使える場合があります。
厚生労働省の「人材開発支援助成金」には、「事業展開等リスキリング支援コース」があります。
このコースは、新しい事業を立ち上げるなど、会社が事業を広げるときに、社員に新しい分野の知識や技能を身につけさせる訓練を助成するものです。令和4年度から令和8年度(2027年3月まで)の期間を限った制度です。
厚生労働省の案内では、中小企業の場合、研修の経費の75%と、研修中の賃金として1人1時間あたり1,000円が助成されます。訓練を始める日の6か月前から1か月前までに、計画の届け出が必要です。制度の期限が近づいているので、使うつもりなら早めに労働局へ相談してください。
建設業向けには、「建設労働者技能実習コース」もあります。こちらは、技能講習や特別教育、技能検定の準備などの技能実習を対象にしたコースです。自社が考えている研修が対象になるかは、支給要領で確かめる必要があります。
これらの助成金は、雇用の安定や、働く人の能力の開発を目的とした制度です。
「独立を前提にした研修が対象になるかどうか」をはっきり書いた資料は、確認できませんでした。
助成金は、会社が事業を広げるために社員を育てる研修が対象です。社員独立支援制度の中で研修を行う場合も、その研修が制度の目的に合うかどうかは、会社の状況と研修の中身によって判断されます。申請するときは、研修の目的を実態どおりに伝え、使えるかどうかを必ず管轄の労働局に確かめてください。
会社の制度とは別に、独立する社員本人が使える公的な支援もあります。社員に独立を勧めるときは、こうした支援もあわせて紹介すると、独立の資金の不安を和らげられます。
政府系金融機関の創業向けの融資:日本政策金融公庫などが、事業を始める人向けの融資を行っている
市区町村の創業支援:市区町村や商工会議所などが、創業の相談や講座を行っている。会社を設立して独立する場合は、市区町村の創業支援を受けると登録免許税が軽くなる制度もある(個人事業主として開業する場合は関係しない)
融資の条件や限度額は、制度の見直しで変わることがあります。利用するときは、各機関の最新の案内で確かめるよう、社員に伝えてください。
協力業者化の制度で、いちばん時間がかかるのが、社員の技能の育成です。育て方は、大きく2つあります。
社内での育成
中身:社内のベテランや、付き合いのある職人の現場で教える
気をつけること:教える側の時間と余裕が要る。育成の期間が読みにくい
外部での研修
中身:職業訓練校や民間のスクールで、期間を決めて学ばせる
気をつけること:研修費がかかる。修了後に現場で場数を踏む必要がある
社内に教えられる人がいない、または教える余裕がない会社には、外部での研修が向いています。外部で基本を身につけたあとは、自社の現場で慣らす期間を置き、自社のやり方や品質の基準を覚えてもらうと、協力業者としての強みが育ちます。
内装(壁紙・床など)の技能を社員に身につけさせる場合の一例として、Kitano壁紙スクールがあります。
コースは次のとおりです。
パーフェクトコース
一人で施工を完結できる基本の習得。床の施工体験を含む
エキスパートコース
柄合わせや、床と壁の境目に貼るソフト巾木まで、現場で稼げる応用力
独立開業サポート
研修に加え、開業の支援と、修了後に実際の現場案件を担当するパートナー契約
各コースの詳細は、こちらをご覧ください。
会社が社員を送り出し、自社の協力業者として育てる場合は、パーフェクトコースかエキスパートコースで技能を身につけさせ、修了後は自社の現場で慣らしていく形が考えられます。独立開業サポートのパートナー契約は、スクールを運営する会社と結ぶ契約なので、自社の協力業者として育てたい場合とは目的が違います。
講習は基本を身につける場です。独立して協力業者として仕事を任せられる腕になるまでには、修了後に自社の現場で場数を踏む期間が必要です。制度全体を「数年単位で育てる」と考えるのは、このためです。
スクールの案内では、企業に向けて、社内での下積みや指導の手間をかけずに、実際の現場でスクールのフォローを受けながら腕を磨ける仕組みを紹介しています。
受講風景には、企業から社員を送り出した例が載っています。いずれも社内の事業を広げるための育成ですが、社員独立支援制度の最初の一歩である「技能を持った社員を育てる」段階の例として参考になります。
鳶職の会社から、自社の業務拡大を目指して受講した社員さんは、パーフェクトコースの最終日に、6畳一間の壁紙を段取りから一人で仕上げました
法人の新事業の担い手として、元エステティシャンと元美容師の2名が、パーフェクトコースを同時に受講しました
ある企業の社長は、お試しコースの時間を使って、内装歴40年の最高講師と自社の現場の課題や目標を話し合い、育成の計画の提案を受けました。その数日後、2名のスタッフをパーフェクトコースに送り出しています
また、スクールのよくある質問では、受講費用が賃上げ促進税制(賃上げを行った企業が税の優遇を受けられる制度)の対象になるかという問いに「対象になります」と答えています。助成金との関係も含めて、詳しくは顧問の税理士さんに相談してください。
次に当てはまる会社は、今は制度を作るより、ほかの手を考えたほうがよいかもしれません。
独立後に出せる仕事が、ほとんどない場合
協力業者として仕事を出せる見通しがなければ、独立した社員の生活を支えられません。制度が、社員を送り出すだけの仕組みになってしまいます。
独立後も、社員と同じ働き方をしてほしい場合
毎日決まった時間に来て、指示どおりに働いてほしいなら、それは雇用の形のほうが合っています。無理に業務委託にすると、雇用との線引きの問題が生じます。
社員が独立を望んでいない場合
制度は、独立を望む社員がいて初めて意味を持ちます。望んでいない社員に独立を勧めるのは、本人のためにも会社のためにもなりません。
育つまでに時間と費用がかかること、独立する社員の資金が足りないこと、独立後に協力業者として関係が続かないことがあること、そして独立後の働き方が雇用と変わらない形になると法律上の問題になることが挙げられます。
制度を作る前に、独立後にどのくらいの仕事を出せるか、どんな契約で組むかを決めておくと、独立後の関係にまつわるトラブルは防ぎやすくなります。育成の時間や独立の資金は、制度の中で計画しておく必要があります。
社員に技能を身につけさせ、独立したあとも協力業者として仕事を出す形が合います。
職人の高齢化で外注先が見つかりにくくなる中、自社のやり方を知る協力業者を自社で育てられる点が、建設業ならではの利点です。
研修費の返還を求める約束を結ぶ会社もありますが、その定め方によっては、労働基準法との関係で問題になることがあります。定める場合は、社会保険労務士や弁護士などの専門家に相談してください。
それよりも、研修のあとも会社にいたいと思える仕事と、独立後も一緒に働きたいと思える取引の条件を用意することが、いちばんの備えになります。
違います。国や自治体が行っているのは、事業を始める人全般に向けた創業の支援(融資や相談など)です。社員独立支援制度は、会社が自社の社員の独立を後押しする、会社ごとの制度です。
独立する社員は、会社の制度と、国や自治体の支援の両方を使えることがあります。
本文の「業務委託契約で決めておくこと」で触れたとおり、一切受けさせない形は問題になりえます。掛け持ちや競業の定めを置く場合は、必要な範囲にとどめ、専門家に相談したうえで決めてください。
社員独立支援制度について、この記事のポイントをまとめます。
社員独立支援制度には、のれん分け、加盟店化、協力業者化、グループ会社化の4つの型がある
建設業やその周辺の会社には、社員に技能を身につけさせ、独立後も協力業者として仕事を出す「協力業者化」が合う
独立した元社員との関係は、実態として雇用と変わらない形にならないようにする
業務委託契約で、報酬、支払い、掛け持ち、責任、契約の期間を決めておく
研修費には助成金が使える場合がある。使えるかは労働局で確かめる
「うちの社員に、本当に技能が身につくのか」「どこから始めればよいのか」と迷ったら、まずは無料でできることから始めてみてください。
Kitano壁紙スクールでは、無料で試せる2つの入り口を用意しています。
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ゲームのような感覚で取り組めるテストです。公開していない動画も見られます。
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詳しくは、Kitano壁紙スクールのホームページをご覧ください。