一人親方の仕事が途切れる原因の多くは、個人の努力だけでは変えにくい仕事の流れの構造にあります。腕のよい職人でも、同じ構造の中にいれば仕事は途切れます。1つの取引先に頼っている、季節や景気で工事の量が揺れる、値段の競争に巻き込まれる、現場に入るための条件が厳しくなっている。この4つです。
この記事では、一人親方の仕事が途切れる構造を1つずつ説明したうえで、今すぐできることと、独立する前に決めておくべきことをお伝えします。
いま仕事がなくて困っている方も、これから独立を考えている方も、まずは自分がどの構造の中にいるのかを確かめてください。記事の途中に、確かめるための一覧を用意しています。
【目次】
仕事がなくて困っている一人親方の状況は、さまざまです。
独立したばかりで、思ったほど仕事が来ない
長く付き合ってきた元請けから、急に仕事が来なくなった
季節の変わり目で、今月の予定が埋まらない
これから独立したいが、仕事が本当に来るのか不安
仕事がないときの対処法を並べた記事はたくさんあります。対処法も役に立ちますが、その前に知っておいてほしいのは、なぜ仕事が途切れるのかという仕組みです。仕組みが分かれば、どの手を打てばよいかも分かります。
一人親方の仕事が途切れる原因を、4つの構造に整理します。
1社への依存
何が起きるか:1つの元請けの仕事が減ると、収入が一気に減る
打てる手:取引先を複数に広げる。独立前に出どころを決める
工事量の波
何が起きるか:季節や景気で、工事の量が揺れる
打てる手:波の時期を記録し、暇な時期にできる仕事を持つ
値段の競争
何が起きるか:仕事を取るために、安い単価で受けてしまう
打てる手:条件を確かめて受ける。品質と技術の幅で選ばれる
現場に入るための条件
何が起きるか:保険の加入などの条件を満たさないと、現場に入れない
打てる手:労災保険の特別加入など、必要な手続きを済ませる
4つの構造は、互いにつながっています。1社に頼っていると、その会社の工事量の波をそのまま受け、値段の交渉もしにくくなります。
逆に言えば、1社への依存を少しずつ減らしていくことが、工事量の波と値段の競争への備えにもなります。
一人親方の仕事が途切れる原因として、よく見られるのが1社への依存です。
独立したばかりの一人親方は、修業した会社や知り合いの元請けから仕事をもらうことが多くなります。それ自体は、独立の最初の一歩として自然な形です。
問題は、その1社の仕事だけで予定が埋まってしまい、ほかの取引先を探す必要を感じないまま年月がたつことです。
元請けの仕事が減る理由は、一人親方の側ではどうにもならないことがほとんどです。元請けの受注が減った、担当者が替わった、元請けが自社で職人を雇った。そうした事情で、ある日から仕事が来なくなります。
1社に頼る働き方は、仕事が続いている間は安定して見えます。しかし、その1社の事情ひとつで収入がなくなるという弱さを抱えています。
次の一覧で、当てはまるものを確かめてください。当てはまった項目の「:」のあとに書いたものが、あなたが今いる構造です。
過去1年の売上の大半が、1つの取引先から来ている:1社への依存
毎年、決まった時期に仕事が減る:工事量の波
仕事はあるのに、手元にお金が残らない:値段の競争
保険の加入などを理由に、現場に入れなかったことがある:現場に入るための条件
2つ目は、工事の量の波です。
建設の仕事は、季節や景気によって工事の量が揺れます。閑散期がいつなのかを示す公的な統計は見当たりませんが、仕事によって、忙しい時期と暇な時期があることは、多くの職人が経験しています。
内装の仕事で言えば、賃貸住宅の入居者の入れ替わりや、新築の完成時期、店舗の改装の時期などによって、依頼の量が変わります。
波そのものをなくすことはできません。ただ、次のような手を打つことで、波の影響を小さくできます。
自分の仕事の量を、月ごとに記録しておく
暇になりやすい時期を知り、その前に次の仕事を探しておく
暇な時期に受けられる、別の種類の仕事を持っておく
波の底でも暮らせるだけの生活費の余裕を持っておく
特に1つ目の記録は大切です。1年分の記録があれば、自分の仕事の波がいつ来るのかが見えてきます。
3つ目は、値段の競争です。
仕事がないとき、どうしても「安くてもいいから受けたい」という気持ちになります。しかし、一度安い単価で受けると、次からもその単価で頼まれやすくなります。
この問題に対して、国も手を打っています。
改正建設業法が令和7年12月12日に全面施行され、それに先立って、中央建設業審議会が「労務費に関する基準」を決定しました(令和7年12月2日)。
この基準のもとで、職人の労務費を著しく低くするような見積もりや契約は禁じられています。見積もりの段階から、材料費と労務費などを分けて書くことも求められるようになりました。
一人親方にとっては、安すぎる単価を押し付けられたときに、「国がこういう基準を出している」と伝えられる材料が1つ増えたことになります。
安すぎる単価かどうかを考えるとき、比べる物差しになるのが、国土交通省が毎年定めている「公共工事設計労務単価」です。公共工事の費用を見積もるための職人の単価で、令和8年3月から適用された内装工の8時間あたりの単価は、東京都で33,400円です。
これは公共工事の見積もりに使う数字で、職人の手取りや、民間の現場で支払われる金額とは別物です。それでも、自分が受けている単価が、この物差しと比べて大きく離れていないかを見る材料にはなります。
値段の競争から抜け出すには、条件を確かめて受けること、そして品質と技術の幅で選ばれることが大切です。技術の幅の広げ方は、このあとの「今、仕事がない一人親方がすぐにできること」で紹介します。
4つ目は、現場に入るための条件です。
建設の現場では、働く人の社会保険や労災保険の加入を確かめる動きが強まっています。条件を満たしていないと、現場に入れないことがあります。一人親方にとって、特に大切なのが労災保険の特別加入です。
一人親方は、会社員の労災保険に入れません。そのため、国の労災保険には、一人親方などが入れる「特別加入」という仕組みがあり、団体を通じて加入します。
国土交通省が一人親方の働き方について開いてきた検討会の資料(令和2年12月)には、現場に入る条件として、特別加入の補償の基準になる金額(給付基礎日額)を1万円以上にすることを求めていた事例も報告されています。
特別加入は、現場に入る条件であると同時に、自分の身を守る保険です。厚生労働省の委託事業がまとめた資料では、2020年から2024年の5年間に、一人親方などの死亡災害で亡くなった人が400人あり、そのうち6割が墜落・転落によるものでした。
まだ加入していないなら、仕事を増やす前に、まず加入を済ませてください。
仕事が途切れた一人親方が、次の取引先を探すときに気をつけたいのが、働き方の形です。国が特に取り上げてきたのが、実態は雇われている働き方なのに、一人親方として扱われている問題です。
形のうえでは請負でも、決められた時間に、決められた場所で、元請けの指示を受けて働き、1日いくらで支払われている。こうした働き方は、雇われて働く人と変わりません。それなのに一人親方として扱われると、会社が負担するはずの社会保険料や、労働時間のルールの外に置かれてしまいます。
国土交通省の「社会保険の加入に関する下請指導ガイドライン」では、契約の前に、働き方が雇われる人に当たらないかを確かめるための「働き方自己診断チェックリスト」を示しています。雇われる働き方に当てはまる場合は、雇用の契約に切り替えることが求められています。
同じ検討会の資料では、形式的には請負契約としながら、実態は「1日2万円(常用請負)」のように1日いくらで働いている例も報告されています。こうした事例は令和2年の資料で報告されたもので、現在の状況をそのまま示すものではありません。
どちらに当たるかは、実際の働き方で判断されます。契約書に「請負」と書いてあっても、それだけでは決まりません。新しい取引先と契約するときは、チェックリストで働き方を確かめてください。雇われる働き方に当たるなら、社会保険に入れてもらえる雇用の形で働くほうが、本人にとっても守られる形になります。
一人親方と取引先のあいだの取引を守る法律も、整いつつあります。
フリーランス・事業者間取引適正化等法(令和6年11月1日施行):発注者は、仕事の内容や報酬などの取引条件をはっきり示す必要がある。従業員を使う発注者には、支払期日を決める義務などが加わる
改正建設業法・労務費に関する基準:職人の労務費を著しく低くする見積もりや契約を禁じている
フリーランス法の義務は、発注者の規模や取引の期間によって範囲が違います。取引条件をはっきり示す義務はすべての発注者にありますが、支払期日を決める義務などは従業員を使う発注者に、買いたたきなどの禁止は一定期間以上続く取引に、それぞれかかります。
なお、下請取引を規制する法律(取適法、旧下請法)は、建設工事を対象にしていません。建設工事の下請の取引は、建設業法で扱われます。
自分の取引にどの法律がどこまで当てはまるかは、公正取引委員会や国土交通省の案内で確かめてください。
一人親方が仕事を取る方法には、次のようなものがあります。
元請けから直接受ける
長所:継続すれば、安定した仕事になる
気をつけること:1社に頼りすぎない
協力会社として継続的に受ける
長所:仕事の流れが決まっていて、予定を立てやすい
気をつけること:契約の条件(単価・支払・専属かどうか)を確かめる
職人仲間からの紹介
長所:信頼のある仕事が来やすい
気をつけること:量が読みにくい
職人と仕事をつなぐサービス
長所:新しい取引先と出会える
気をつけること:手数料や、価格の競争に気をつける
自分でお客様を集める
長所:元請けを通さない分、手元に残るお金が増えやすい
気をつけること:集客、見積もり、材料の手配、支払いの管理まで自分で行う
どれか1つが正解ということはありません。複数の取り方を組み合わせて、1つが止まっても収入がゼロにならない形にしておいてください。
いま仕事が途切れて困っているなら、次の順番で手を打ってください。
1. これまでの取引先を書き出し、1社に頼っていなかったかを確かめる
2. 過去の取引先や職人仲間に、仕事を探していると連絡する
3. 労災保険の特別加入など、現場に入る条件を満たしているか確かめる
4. 自分の技術で受けられる仕事の幅を書き出す
5. 職人と仕事をつなぐサービスなど、新しい出会いの場を1つ試す
6. 暇な時期を、次の技術を身につける時間に使う
特に6つ目は、見落としがちです。
壁紙に加えて床、床に加えて補修というように、隣の技術も身につけておくと、受けられる仕事の幅が広がります。複数の工種をこなせる職人は「多能工」と呼ばれ、1つの現場でまとめて頼まれやすくなります。
1社への依存から抜け出すには、取引先を広げる必要があります。ただ、いきなり新しい取引先をたくさん作ろうとすると、今の取引先の仕事に手が回らなくなります。次の順番で、少しずつ広げてください。
1. 今の取引先の仕事を、きちんと続ける
新しい取引先を探しているあいだも、今の取引先は大切な収入源です。今の仕事の品質を落とさないことが、何より先です。
2. 過去につながりのあった人に連絡する
以前一緒に仕事をした職人、元請けの担当者、管理会社の人。まったく新しい相手より、顔を知っている相手のほうが、仕事の話は進みやすくなります。
3. 自分にできることを、短く伝えられるようにする
「壁紙の貼り替えを、一人で一部屋から受けられます」「床の貼り替えもできます」のように、自分に頼める仕事を短く伝えられるようにしておきます。名刺や、仕上がりの写真をまとめたものがあると、話が早く進みます。
4. 新しい取引先の最初の仕事を丁寧に仕上げる
新しい取引先にとって、最初の仕事は、あなたを試す機会です。期限を守り、仕上がりを確かめてから引き渡し、連絡をこまめにする。最初の仕事の印象が、次の依頼につながります。
5. 取引先ごとの売上を記録する
どの取引先から、どのくらいの仕事が来ているかを記録しておくと、1社への依存が進んでいないかを確かめられます。1つの取引先に売上が集まりすぎていたら、次の取引先を探す合図です。
仕事が途切れた時期は、入るお金が減るので、出ていくお金の管理がいつも以上に効いてきます。
毎月の固定費:車のローン、リース、保険、通信費など、仕事がなくても出ていくお金を書き出す
税金の支払い:前の年の所得にかかる住民税や、予定納税の時期を確かめる
国民健康保険・国民年金:支払いが難しいときは、減免や猶予の制度がないか、市区町村の窓口で相談する
取引先からの入金:未入金の仕事がないか確かめ、請求を済ませる
特に税金と保険料は、収入が減った年でも、前の年の所得をもとに請求が来ることがあります。支払いが難しいときは、放っておかずに、早めに窓口に相談してください。
これから一人親方として独立する人にとって、いちばんの備えは、独立する前に、仕事の出どころを決めておくことです。
日本政策金融公庫の「2025年度新規開業実態調査」では、業種を問わず開業した人が、開業後に苦労していることとして「顧客・販路の開拓」を最も多く挙げています(48.8%)。独立したあとに多くの人がぶつかるのは、仕事の確保の壁です。
最初の取引先:独立した月から仕事を出してくれる先があるか
取引の条件:単価、支払いの時期、専属かどうか、手直しの費用の持ち方
2つ目以降の取引先:最初の取引先のほかに、仕事を広げる当てがあるか
生活費の余裕:仕事が少ない月でも暮らせるだけの蓄え
保険と手続き:労災保険の特別加入、開業届など
継続して仕事を出してくれる会社と組む場合は、業務委託の契約を結ぶことが多くなります。契約の前に、次の点を確かめてください。
報酬の決め方(面積か、1日いくらか、何が含まれるか)
支払いの時期と方法
ほかの会社の仕事を受けてもよいか(専属かどうか)
仕上がりに不具合があったときの責任の持ち方
契約の期間と、終わるときの決まり
一人親方として独立する道の1つに、内装(壁紙・床など)の職人があります。
賃貸住宅の入居者の入れ替わりや、住まいの模様替え、店舗の改装など、建物がある限り貼り替えの依頼は生まれます。一方で、ここまで見てきた4つの構造は、内装の一人親方にもそのまま当てはまります。技術だけでなく、仕事の出どころをどう作るかを考えておく必要があります。
独立開業サポートでは、最大45日間の研修に加えて、開業の支援と、修了後のパートナー契約を用意しています。研修の修了後はパートナー契約のもとで実際の現場案件を担当する形で、スクールの案内では、自分で営業しなくても仕事を受けられることや、加盟店が本部に払うような継続的な支払い(ロイヤリティ)がかからないことを掲げています。
この記事で見てきたとおり、どんな契約でも、単価の決め方、ほかの仕事と掛け持ちできるか、契約の期間や途中でやめるときの条件は、契約の前に確かめてください。パートナー契約の条件も、申し込みの前の説明で確かめられます。
コースは次のとおりです。
パーフェクトコース
一人で施工を完結できる基本の習得。床の施工体験を含む
エキスパートコース
柄合わせやソフト巾木まで、現場で稼げる応用力
独立開業サポート
研修に加え、開業の支援と、修了後に実際の現場案件を担当するパートナー契約
各コースの詳細は、こちらをご覧ください。
すでに一人親方として働いている方が、隣の技術を身につけるために受講する例もあります。受講風景には、大工さんやふすま屋さん、設備屋さんなどが、仕事の幅を広げるために壁紙の技術を学ぶ様子が載っています。
ただし、仕事がなく生活費に余裕がない時期に、大きな費用のかかる受講を急ぐ必要はありません。まずは生活を立て直し、見通しが立ってから検討してください。
仕事が途切れる、単価が安い、保険や税金を自分で管理する必要がある、といった点が理由として挙げられることが多いようです。
ただ、これらの多くは、この記事で見てきた4つの構造(1社への依存、工事量の波、値段の競争、現場に入る条件)から来ています。構造を知って手を打てば、軽くできる部分もあります。
1社に頼って単価の交渉がしにくい、安い単価で受けてしまう、工事量の波で働けない日がある、経費や保険料を自分で負担する、といった理由が重なることが多いためです。
取引先を広げる、条件を確かめて受ける、技術の幅を広げる、といった手を打つことで、手元に残るお金は変わってきます。
どちらが得かは、人によって違います。
社員は、収入が安定し、社会保険料の一部を会社が負担してくれます。一人親方は、腕と仕事の取り方しだいで収入を上げられる一方、仕事の確保、保険、税金を自分で管理する必要があります。
どちらが得かより、自分がどちらの働き方で力を出せるかで考えてください。
本文の「仕事の取り方の選択肢」で紹介した5つの方法があります。1つの方法に頼らず、複数を組み合わせることが、仕事を途切れさせないいちばんの備えです。
一人親方は雇われて働く人ではないので、原則として雇用保険の失業給付の対象にはなりません。
だからこそ、仕事が少ない月でも暮らせるだけの生活費の余裕を、日ごろから持っておくことが大切です。
一人親方は個人事業主なので、ほかの仕事をすることは自由です。仕事が途切れた時期に、生活を支えるためにアルバイトや別の仕事をする人もいます。
ただし、取引先と専属の契約を結んでいる場合は、ほかの仕事が制限されていないか、契約の内容を確かめてください。
職種、地域、仕事の取り方、働く日数によって大きく違うため、1つの金額では言えません。一人親方の年収を職種ごとにまとめた公的な統計も見当たりません。
年収を考えるときは、「1日に稼げるお金×働く日数」から、経費と税金・保険料を引いて見積もってください。1日の単価を比べる物差しとしては、本文で紹介した公共工事設計労務単価が使えます。
一人親方の仕事が途切れる原因は、次の4つの構造にあります。
1社への依存:1つの取引先の事情で、収入がゼロになる
工事量の波:季節や景気で、仕事の量が揺れる
値段の競争:仕事がないときほど、安く受けてしまう
現場に入るための条件:保険の加入などの条件を満たさないと、現場に入れない
どの構造にも、打てる手があります。そして、これから独立する人にとってのいちばんの備えは、独立する前に、仕事の出どころを決めておくことです。
内装の一人親方として独立を考えているなら、まずは無料でできることから始めてみてください。
Kitano壁紙スクールでは、無料で試せる2つの入り口を用意しています。
無料「LINE職人テスト」
ゲームのような感覚で取り組めるテストです。公開していない動画も見られます。
無料「個別キャリア診断」
ヒムロ最高講師に、15分間相談できます。
詳しくは、Kitano壁紙スクールのホームページをご覧ください。